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2026.03.19

  • Interview

『ビットワールド』クリエイターズ・トーク いとうせいこう×長江 努

『ビットワールド』クリエイターズ・トーク いとうせいこう×長江 努

2001年放送開始の『天才ビットくん』から数えて25年。多くの子どもたちに愛された『ビットワールド』が、2026年3月27日にその歴史に幕を閉じます。
番組終了が発表された直後から、SNSはなぜあれほどまでに、かつての「子どもたち」の熱い声で溢れたのか。
実は去年夏の舞台「ビットワールド THE STAGE」の稽古中に、25年にわたり番組の顔を務めたマルチクリエイター・いとうせいこう氏と、番組の企画プロデューサーであり、今回の舞台の製作委員会メンバーでもある、弊社ファウンダーの長江 努が対談しました。
長年クリエイティブを共にしてきた二人が、番組、そして舞台への想いについて語り合います。

 

 『ビットワールドTHE STAGE』製作委員会のご厚意で、劇場パンフレットに掲載された二人の対談を一部構成を変更して掲載いたします。 

 

番組誕生の経緯


 

長江 2000年にNHKでデジタルスタジアムというクリエイター発掘番組をプロデューサーとして立ち上げたんですけど、新進気鋭のアニメーション作家が次々に現れたことで、局内で評判になって、ぜひ子ども版もやろうということになりました。
いとう あ、デジスタだね。
長江 はい。なので、実はボクが最初に書いたのは「デジスタキッズ」ってタイトルの企画書だったんです。それが紆余曲折を経て、Eテレ夕方の「天才てれびくん」の隣の枠が空いてたことから、「天才ビットくん」として収まることに … 
いとう 変な形で収まってんだよね、最初っから。
長江 当時の担当部長がデジタルとか扱う番組なので「ビット」、「天才ビットくん」でいいんじゃないかって決めたんです。
いとう 助かったことに、おまけみたいなところに置かれたからより実験的なことをやらなきゃならなったし、やらせてもらえたんだよね。そこは何か不思議な鬼っ子っていうか、すごいラッキーだったと思うんだよなぁ。
長江 今でも覚えてますけど、番組内容が固まって一番最初にせいこうさんとお会いしたのって、確か2000年11月頃だったかなと思うんですけど、そのときに言われたことで一番印象に残ってるのが「とにかくボクは子どものアイデアを褒めたいんだ」と。
いとう そうですね。子どもって大人からすると妙なこととか、的を射てないことを考えているんだけど、それをそのまま褒めるってあんまり見たことないなと思って。特にテレビの中でね。作る側が予想できるものを褒めるのではなく、何でこんなカエルの絵を送ってきたんだろうっていうところが子どもの面白いところだから、それを大いに褒めてやるっていうのは面白いことでもあるし、必要なことだろうなと思ったんだろうね。それをいまだにビットはやってますもんね。
長江 そんなやり取りから生まれたのが「キミたちは天才だ!」
いとう そうそう!そういうセリフが出てさ、実際、天才的にもう訳の分からないものが次々送られてくる。で、それがボクらにとっても刺激だったんですよね。
長江 そうやって番組の企画段階で子どものアイデアで番組を構成するってボクが決めて、せいこうさんがそれを全部褒めたい、なぜなら子どもたちは天才だからと。実はそこでビットというシステムがすでに完成していて、せいこうさんもボクもその瞬間から歯車になってるんですよ。だからボクらの意思とかじゃなくて…
いとう そう、あとは彼ら(のアイデア)が動かしてるってことですね。
長江 それを続けているうちになんか時間経っちゃったみたいなところはありますよね。
いとう そう。そうだね。

 

生放送とフィクションという掛け算


 

長江 子どものアイデアを番組が膨らませて子どもたちが楽しめるようなものを作ってたところに、生放送という新しい飛び道具が加わりましたよね。
いとう 助かったね〜あれは。
長江 色んな生放送をやってきた中で一番印象に残ってるのってどれですか?
いとう 箱二郎と箱一郎っていう兄弟のロボットがいて、どっちを残すのか残さないかと。これを手放すことで得るものもあるんだけれども、その代わりどちらかと別れなきゃいけないとかっていうようなね。それを子どもたちの投票で決めようと。そしたら子どもたちも泣きながら投票して…もうね、システムを超えたエモーショナルなものがすごいあったわけじゃないですか。しかもインタラクティブで。それでその次の回からのお話が変わってくるっていう、本当にダイナミックなことを…
長江 その箱二郎と箱一郎、どっちを選ぶかっていうのも、子どもにとってみれば究極の問いかけじゃないですか。実はいまだに反省していることが1つあるんですけど、調子に乗ったボクらがやってしまったのが、バグハグ大王に侵略されたビットランドをリセットするかどうかみたいな。もう、こうなったらビットランドをリセットしてしまおうみたいな。
いとう うん (笑)
長江 で、子どもたちは正義感が強いから絶対にリセットを選ぶじゃないですか。
いとう そうなんだよね。
長江 そしたら、本当にリセットしてしまった後の子どもたちの喪失感が半端なかったんですよね。
いとう そうね。PTSDみたいなことになったと思うんだよね。
長江 結果、その後に始まった4月期は子どもたちの投稿も全然振るわなくて、番組が盛り上がらなかったんですよね。いくら実験番組だからってやっていいことと悪いことがあって、子どもたちの心を弄んじゃいけないんだって、それで学びました(苦笑)

舞台『ビットワールド THE STAGE』千秋楽
舞台『ビットワールド THE STAGE』千秋楽の打ち上げにて

 

 

みんな「子育て世代」になった不思議なシンクロ


 

長江 せいこうさんをはじめ、出演者やスタッフも共に年を重ねてきましたが、実は20年以上経って、主要メンバーが揃って「子育て世代」だという謎の現象が起きていますよね(笑)
いとう そうなんだよね、本当に不思議。年代はバラバラなのに、なぜか皆が同じような年齢の子どもを育てていて、現場でも子育ての話ばかりしている。かつて「いつか自分たちが親になるまで番組を続けられたら理想だね」なんて話していたけれど、本当にそうなってしまった。もはやこれ自体がフィクションのような話ですよ。
長江 実は自分にとって、2001年にスタートした『天才ビットくん』が初めて担当した子ども番組だったんです。その翌年に最初の子どもが産まれたのですが、それがきっかけで番組に向き合う姿勢がガラッと変わりました。
いとう ほう、どんな風に?
長江 この子が、自分が作る番組の視聴者になるんだ」と思った瞬間に、もう一切手が抜けなくなったんです。それまでは表現の自由度の高い子ども番組という枠の中でどちらかと言うとクリエイターのエゴみたいなものが優先していたのですが、「この子が心の底から面白がるものを作らなければならない」という強い使命感が生まれました。
いとう それはよく分かります。僕も、我が子が夢中で生放送を見ている姿をスマホで撮ってもらって、家に帰ってきて見てみるんだけど、まだボタン操作もよく分かっていないはずなのに、必死になって押してるわけよ。「こんな熱量で見てくれているのか」と驚かされますよ。
長江 子どもの集中力と熱量は、大人の想像を超えてきますよね。
いとう 現場では僕らなりの楽屋落ちや高度なギャグも飛ばし合っていますが、その「自分たちが一番楽しんでいる空気感」が、子どもたちにも伝わっているんだと思うんです。僕らにとって、「自分の子ども」という名の偉大なスタッフが登場したことは、クリエイティブにおいて非常に大きな転換点でしたね。
長江 25年経ってもせいこうさんら出演者もボクら制作スタッフも「歯車」なんですよね(笑)
いとう そうそう、僕らが作っているというより、子どもたちに“やらされている”という感覚に近い。
長江 子どもたちの妄想、期待感、そして圧倒的な熱狂。そのエネルギーに回されてる歯車というか…
いとう どこまで期待に応えられるか……とにかく、もう僕の体力がついていかないのではないか心配で(笑)

 

「のっぽさん」を超えて挑戦し続ける


 

長江 ご自身のキャリアの中で、一つの番組が25年続くというのはどんな感覚ですか?
いとう 実は番組開始当初、心の中で「尊敬するのっぽさん(高見のっぽ氏)の出演期間を超えるまでやるんだ!」と決めていたんです。実際にそれを超える年月が経ちましたが、今は自分がやっているという感覚はあまりないですね。「子どもたちは天才である」ということだけを肝に銘じて、彼らの反応に身を任せているだけで …
※のっぽさん:1966年〜1990年までの24年間、NHK教育(Eテレ)の『なにしてあそぼう』『できるかな』に出演
長江 毎週3,000件ものアイデアが子どもたちから届く。これは、世界中を探しても他にはないことだと思います。
いとう それをインターネット普及前から続けてきたわけで。僕はこの番組の試みがもっと評価されるべきだと思っていて、もし自分が関わっていなかったとしても、一人の批評家として絶賛する記事か何かを書いたと思うんだよね。そのくらい、テレビとして面白いことをやり続けてきましたよね。体が動かなくなっても、今はアバターやスマホ一つで動きを反映できる技術がある。指さえ動けば、ベッドの中からだって続けられますよ(笑)この「すごい技術を使いながら遊んでいる」という面白さを、最高の形で届けていきたいですね。

 

舞台化について


舞台『ビットワールド THE STAGE』

長江 そんなビットが25年を経て舞台化されるっていうのはどうですか(笑)
いとう いやいや(笑)そこは気づかなかったなっていうのはやっぱりありますよね。
テレビ界ではまだ使っていない最先端テクノロジーをビットはいつも使ってやってきたわけだけど、これからもそこを突き詰めていくんだろうな、チャットGPTの時代に … ぐらいに思ってたら、突然、『芝居』っていうさ、一番肉体的なことを言い始めたから「面白いこと言い出すな」と思って、もう1も2もなく、OK OKって言ったけど…
でもさすがにいい年してずっと稽古やってんのは疲れるよね。セリフも多いし(笑)
長江 きっかけは、生放送のスタジオの前をたまたま通りかかったNHKエンタープライズの河邑プロデューサーに、「こんな面白いセット組んでる生放送スタジオ、世界中どこ探してもないから見ていってくださいよ!」って中に呼び込んだんですよ。で、いろいろ話してるうちに芝居にできる原作を探していると。「そうだ!天てれもやってるし、ビットもできるんじゃないですか!?」って話になって、そこからはあれよあれよという間に話が決まってしまいました。
いとう そういうことだったんだ。こっちはまだ殺陣もやってないし踊りもやってないし歌もやってないしさ、どこまでできるのっていう(笑)
でもビットってそういうことが実は出来るメンバーを、いわば温存してたわけじゃない。だからいざ立ってみると素早くみんなが対応できてるから、とりあえず俺はどこで楽をするかだけ考えればいいんだなっていう感じの今は調子で見てますけどね。

舞台『ビットワールド THE STAGE』02

 

長江 ボクは過去にシティボーイズの芝居でせいこうさんの芝居を拝見していて、今でもすごくよかった、面白かったって記憶が残っているんです。過去にもなんとかあの味を出せないかなと思ってトライしたのが、ヒロキ時代に夢探偵の事務所を珍しくCGではないリアルなセットで組んで、その中でエチュード的な撮り方したことあったじゃないですか。
いとう うん、うん。あった。
長江 ドラマとしてはシーンの終わりだけ決めて、あとはアドリブで進めてくださいってやってもらう。皆さん芸達者だしまあまあの付き合いになるのでみんな息も合ってるし、すごく良かった。そういう実績もあったんで、「舞台、絶対できるな」と思ってはいました (笑)
いとう だから今回も稽古の段階で既にアドリブをどんどん入れてってるけど、ビットのメンバーはなんてこともなくこなしちゃうからね(笑) 向こうもやってくるからね(笑)みんな何十年もやってきてるし、ギャグのセンスもいいから面白いこと言うんですよねぇ!ボクがポカやったとしても、とりあえずみんなが何とか埋めてると思うんだよね。それってやっぱり信頼感ですよね。
長江 舞台やる前からビット一座だったみたいな(笑)
いとう そうそう!今回は若い人たちも入ってもらって、違うタッチをお客さんたちに見せる。そういう意味でも、これまでビットがやってきた実験の部分と、人間的な繋がりみたいなものががっちり噛み合って舞台になるっていうのは、初めての経験だから期待感ありますよね。
長江 ボクらが番組を作る上でいつも肝に銘じてることが一つあって、子どもって自意識が強い生き物だから例えばアイデアを投稿したら、もしかしたらその翌週の放送で紹介されるんじゃないかって1週間ドキドキしながら待ってたりなんてことがあるんだろうなと。でもそう簡単には採用されることもなく「あー!されなかった!」ってがっかりするみたいな。自分もそんな子どもだったので。そんな感じを今回の脚本にエッセンスとして入れてほしいって川尻さんにお願いしたんですよ。
いとう なるほど、なるほど。そうね、送ってくる子たちの立場ってどういうものかっていうことが、今回の舞台の主軸にはなってるからね。
長江 なので、そういう意味でもすごくビットらしい話になったなっていう。

 

 

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